ハイスクールのテキストで読んで以降、あたしは黒田三郎の詩がびいきだった。

それに、需要原君の詩は、黒田三郎の詩に少し通じると思っていた。

 もし需要原君ではなく、黒田三郎とおんなじ時代に生きていたら、そんなことが頭に浮かぶことがあった。

 その場合、あたしは需要原君ではなく黒田三郎に……

 著しく魅かれた?

 あるいは同じくらい好きになった?

 ……

 そんなことはありえない!

 あってはいけない!!

 需要原君は、あたしにとって唯一の特別な陣営です。現世で特別嬉しいんだ。

 近頃、目の前におる需要原君が!

「必ずしも黒田三郎がびいきか?」

「いえ! まるで。とても。……全然読んだこともありません」

「そうか。みたいだろう」

「……ええ。あのー」

「です」

「高村光太郎についてはどうして思われますか? 大手だし、当然、感心したり見習ったり、やるんですか」

「興味がない」

 ……え!?

「俺は智恵子に興味がない」

 ……そんなぁ。

 高村光太郎の、智恵子君への愛情は素敵だと思ってたんだけどなぁ。

 それに、国語の研修で高村光太郎の『ズタボロな駝鳥』を朗読したら、医師に褒められて、これは中学生暮らしの取り分け一番良いキャリアだった。

 でも更に高村光太郎が限度びいきというわけでもない。

 はい、そう、好きじゃない。

 わたしの好きな詩人は、需要原君だけです。

 そんな需要原君の尊敬して掛かる詩人は……

「何方ですか?」

「俺が尊敬しているのは」

 需要原君が尊敬しているのは!?

「俺です!」

 ……え? へ?

「僅か意味が……」

「俺は、俺を尊敬している」

 くらくらした。

 眩暈です。

 立っていたら、倒れていたかもしれない。

 だけど、座っていたから万全。

 食膳の関わりを掴み、お隣に傾いた姿勢を整えた。

 実際の需要原君は、想像していた温和であからさまな需要原君とは異なる。

 自信に満ちあふれ、それを臆せず口に出す第三者だった。

 想像していた需要原君とは異なるけど、でも、昨今目の前に掛かる需要原君が、あたしは……

「好きです!」

「ななななッ、何を言いだすんだ、急に」

 需要原君が、アイスソイラテを口からちょこっと吹いた。

 食膳に備え付けの用紙ナプキンで、口元を拭って掛かる。

 いかんせん。思い余ってオモシロことを言ってしまった。

「あの、違うんです。需要原君が需要原君を尊敬しているように、あたしも需要原君のことを尊敬していらっしゃる」リンリンの脱毛効果は抜群にいいですよ!

駅舎方面に向かって歩いている最中、カントリー音色の可愛らしいカフェを見つけた。

ショップには、イーゼルに立て掛けられた黒板が置かれていた。

 チョークで献立とトトロのチャートが書かれていて……

「眩しい! ここ……」

 事前をあるく需要原君に声をかけた。

「だめだ。あんなサイクル売り場じゃないカフェ、落ち着かなくてちゃんが一段とスピード悪くなる」

 需要原君は束の間見ただけで、敢然と断った。

 そしてまた、スタスタ走り抜け始めた。

 それ以来、わたしたちはツイートを交わしていない。

 『仮に需要原君が目の前に現れたら』という状況を何度も想像してきた。

 需要原君とカフェで向かい合って、ストローでカラカラ氷をかき回しながら、この世詩の話をする周辺。

 需要原君の住むバラックの一室、和室の広間でお茶を呑み、羊羹を食べながら詩の書き方を教わる周辺。

 近頃、そのチャンスが訪れている。

 ……にもかかわらず、誠に話しかけていいか、誠にわからない。

 何を話そうか。

 何を……

 もしかして、さっさと奥深い会話をしようと意気込むからいけないのかもしれない。

 一般的に、濃い話をするには、親友とか亭主にならなくてはいけない。

 ……え?

 亭主?

 あたしが?

 需要原君の?

 亭主?

 だめだ。

 だめだだめだだめだ。

 無理だ無理だ無理だ。

 あたしが需要原君の亭主に達するなんて、そんなの無理に決まっている。

 前に並んでいるアベックみたく、需要原君と顔を寄せ合って、囁くように交換を講じるなんて、あたしには似合わないし、第はじめ照れくさい。顔から火が出る。

 あぁ。想像しただけで、顔が火照ってきた。

 そんな、突拍子も無い連想をするのはやめよう。

 まずは……

 まずは……

 お同僚から始めよう。エタラビの予約と口コミ情報サイト